五重塔

日本が誇る匠の古代建築

五重塔

 

始まりは「自分で作りたい」という思い

 

2020年代、日本全国には約110基の五重塔が存在すると言われています。その内、22基が江戸時代より前に建築されています。最も古い塔は法隆寺の五重塔で、西暦680年に建築されたと言われており、その歴史は1300年以上。世界最古の木造建築として世界に誇る建物となっています。

小比賀工務店棟梁である小比賀満(以下:棟梁)が「五重塔を作りたい」と思った当初(1980年頃)、工務店としての仕事は社寺仏閣ではなく一般住宅の建築が主でした。しかしこの思いが芽生えた時から古代建築についての猛勉強を開始し、実際の社寺仏閣の建築にも事業を広げました。

その思いから25年、宮大工としての知識と実績を広げ、具体的な図面と準備が整い制作着手となりました。制作途中には新聞やTVなどで大きく取り上げて頂いた事もあり、県内外の興味のある方から大学教授まで、本当に多くの方から応援のお言葉を頂きました。
 

全長約8m、
着想から約40年、
完全オリジナルの五重塔、
大切に扱ってくれる方を探しています。

 

棟梁一問一答

ただ、垂直に、高いモノを建てるのが好きだった。そこで目をつけたのが五重塔。五重塔は大工として美しさもあり、強度もあり、柔軟さもある。そういうところの魅力に惹かれて、五重塔の図面をひこうと。作ろうという考えになった。大工の規矩術(きくじゅつ)の凝縮が五重塔に入っている。

現地に行ってみたり、あとは自分で研究して、基本的には独学で。大工技術は見て覚えるモノ。昔は親方が手取り足取り教えたりというのはまず無かった。聞いたらもしかしたら教えてくれるのかもしれないが、大工としてのプライドもあり、聞けなかった。最後は自分なりの発想になった。だけどその自分なりの発想というのが、結局伝統工法の中でそれなりに適当だなというのがあれば、これはOKとなる。

技術的に特別難しいというところはあまり無いが、同じものを大量に作る必要がある。マスだけでも5,000個は作っており、作り出した部品の数は10,000は確実に超えている。中には作っても壊れてしまう部品もあり、実際に作った数で言うと数え切れず、膨大な年月がかかった。

強度や見た目の美しさにおいて、奈良時代から江戸時代まで、各時代の五重塔から良いとこ取りをした造りにしている。「◯◯の造りは鎌倉のモノが良い」と思うと、鎌倉時代の五重塔を参考にする。そもそも五重塔というのは強度が一番大切。高いものだと不安定になる。地震、強風、雪、あらゆる災害に耐えらえる強度が必要。江戸時代から始まった楼閣工法を用いている。ただ理想ばかり追い求めてやっているというのではなく、構造的にも、100尺の塔の構造を組み上げる強度のものよりも丈夫に仕上げている。

先代までは普通の住宅の仕事をする事がほとんどだった。その時分は高度成長時代で、自分が弟子に入った時には、国の発令で「住宅金融公庫」というのがあり、それを利用して建てる人が多かった。しかしある時期が来て、自分の家もできて、そこそこ順風満帆でいった時分に、五重塔という設計を考え、伝統建築に目を向けた。

本当にこれ(五重塔)に愛着をもって、作った人の気持ちや、どうやって作っていったのかとか、色々な事を思いながら眺めてくれる人や施設、また愛着もって長く保存してもらう事を一番に願う。瓦を葺くと、これが水が漏れたりという事もない。建築物としての強度まで考えてものづくりをした。100年200年は十分に建つ塔。保存してもらえると、その場所へは定期的に足を運び経過観察やメンテナンスをしていきたいと思っている。自分が生きている限りはずっと。自分が難しくなっても、一緒になって建築してくれた息子、孫というのが見に行くだろう。考えて考えて考え尽くして、理想な形にもっていった。